幼児教室PAL パル・クリエイション

   

パル便り

パルだより4月号 リトル/チャイルド

幼児が造形活動から得ることができる恩恵には、少なくとも3つの要素が存在します。
・画材や道具について知る。またその使い道や、技術について知る。事実の認知。
・感覚の刺激、感情の開放。これらは豊かな人間性の育成につながる。
・気付きを体験することで、思考力が育つ。
私は上の3つのうち、3つ目を一番大切にしています。造形活動は思考力を得るための媒介
の役目を果たすと考えています。
 一般的に、幼児に造形の習い事をさせるとしたら、お母さん方はそこに何を望まれるでしょ
う。そうあって欲しいと思う動機としては、「楽しいことに出会って有意義な時間を過ごして欲し
い」のような事ですが、中には「少し上手に見える絵が描けるようになってほしい」「少し手先
が器用になり、手際良く工作をすることができるようになればいい」と思っている人もいるはず
です。受験を考えている人は特に、ライバルより見栄えの良いものが必要だと考えるでしょう。け
れど私が考える造形とは、反復による技術の向上を目指すことに尽きるものではありません。課
題と向き合い、考えて迷って解決への方法を編み出す活動をくぐると、目に見える作品も変わって
きますが、それ以上に目には見えない部分の彼等の思考力や感性の部分が変化していきます。そし
てその思考力は造形をする時に限定されるものではなく、彼らが必要とするあらゆる事態に有用
だということです。
 5月の末に年中で「ティッシュの箱から」という授業があります。ティッシュの空箱の四隅の辺
をハサミで切って、展開図を作ります。新たに画用紙に鉛筆で展開図を写して切り取り、箱を復元
するという内容です。ティッシュの箱に取り掛かる前に画用紙を各自に一枚渡してただ単に「この
一枚の紙で箱を作ってごらん。」と投げ掛けるのですが、私にとってはこの前者の作業の方が
ずっと魅力的です。作り方には触れませんが、折ってもよし、ハサミでバラバラに切って組み立て
てもよし、などと考え方の入り口は提示します。ただ、今までこの「一枚の紙からの箱作り」の
作品を見たお母さん方から感嘆の声を聞いたことはほとんどありません。大人の目から見たら出
来栄えはパッとしないし、きちんとできてもそれは当たり前とみなされるのでしょう。しかし、
この授業で子どもが作業をする過程を見ることは、私にとって本当に興味深い体験です。子ども
の考え・疑問・作業・失敗・再チャレンジetc,etc 。子どもの頭の中が丸裸にされていて、迷路に
迷い込んだ子どもが必死で解決の出口へ向かおうとする姿を見ることができます。地道に取り組
む知性が芽生えかけている子、すぐに考えることをやめてしまい目的に辿り着けない子、それぞ
れその子の今が映し出されるし、それをどうフォローしていくべきかが見えてきます。お母さん方
には、子どもの見えない試行錯誤に思いを巡らせることに是非取り組んでいただきたいと思いま
す。そうしないと、子どものうわべの発達にしか手が届かず、真の発達を見逃すことになりかねま
せん。子どもの中にある無限の可能性の部分部分をつまみ出して無作為に刺激することは、無駄
が多いばかりか子どもを混乱させる恐れがあります。多くを知るための努力より、考える力を蓄
える努力の方が長きに渡って子どもの人生を支えることになるのです。
 重ねて申し上げれば、発言力を育てるのも上記のような活動の中で取り組む必要があり、本当
に自分の頭で考えたことを発表している時の子どもは、なんとか相手に伝えようと必死に言葉を
捻り出して説得しようとします。思考と発言は連動しています。もともと蓄えられた知識を表出す
るのと、活動の中で考えたことを自分の言葉で表す作業を比べれば、後者のほうがずっと難し
く、鍛えられた発出力はさまざまなシーンで有効に活用されるはずです。
                                       高崎
     

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