幼児教室PAL パル・クリエイション

   

パル便り

パルだより9月号 リトル/チャイルド

 今年はどれほど、猛暑日過去最高日数というのを更新するのだろうとうんざりしていましたが、流石にほんの少しずつ秋の気配が感じられるようになりました。お盆明けのコロナ感染者数がどこまで伸びるか心配ですが、そこも超えたらまた減少傾向になるのではと期待しています。 さて、今日は造形の授業の中身についてお話ししようと思います。「中身」とは何を指すか? 絵画・紙工作・粘土た!という体験をしている子供達です。「まず、みんながどんな果物が好きか教えてよ。紙をあげるから一枚に1つずつ好きな果物を描いて見せて」この時点で子どもはどんなことを考えているでしょう。「私、りんご」「僕、ブドウ描く」「ねー、バナナはどう?」3歳児の絵は言葉と一緒で、人との共通認識を記号で表したようなものです。しめしめ、子ども達には4種の果物を描いてもらったのですが、圧倒的にブドウが多い。「みんな、色々な果物知っているのね。今日はその中からブドウをご馳走したいと思います。みんなが描いてくれたブドウをドーナツの時のように魔を・・・・といった類の中身ではなく、授業を受けることで子供達は何に気づき、何を発見し、何に満足したかといった「中身」です。
 例えば、先日年少の授業で「ブドウ」を描いたのですが、この授業に盛り込まれた内容は どんなものだったでしょう。まず私は、「今日はねー、みんなに美味しいものをご馳走してあげます。それはフルーツです。」と言いました。1学期にドーナツを絵の具で描いて、その絵が本物のドーナツになっかけて本物にしたいんだけど、うーん、中身が空っぽ(輪郭だけ)のブドウだったり4粒だけだったりで、ドーナツのようには美味しいのができないかも。」そこでやおら本物のブドウ登場。「ほら、本物は実がいっぱいついてるよ。幾つくらいついているかな。」ここで子ども達はそれぞれ数を叫ぶのですが、そもそも数の概念がまだ無いのですからたいがい単数を言います。では数えてみよう。「いーち、にい、さーん、しー、・・・・11、12、13、・・・・」この辺まではみんなの声がハモります。「18、19、次は?」ここで数唱ができる子がどのくらいいるかがわかります。とりあえず繰り上がるたびに直前で止めて、次は?と尋ね、20、30、40、50、60と数え、61、62、63、64・・全部で64粒でした。「こんなにたくさんあるんだね。それからね、ブドウの実を外したら中から何か出てきたよ。これはなんだ?何に似てる?」ブドウの軸を持ってみんなのテーブルを回ります。子ども達は口々に「トゲトゲしてる」「木みたい」と感想を述べます。このようにただ眺めるだけでなく、分解し、中と外を別々にしてブドウの構造を明らかにします。こうして対象物を認識し、理解していきます。そこで突然私は次のように言葉を発します。
「そうか、さっきみんなに描いてみて、って言って描いてもらったけど、みんなは何にも見ないで描いたんだね。それじゃーブドウがどの位ついているか、どんなふうに付いているか分からなかったよね。」こうした働きかけが、記号としての絵から、より対象物に敏感になり気持ちを込めて描く絵へと進める入り口作りになります。「今度はブドウの木(軸)を見てみよう。」主軸から枝分かれした部分を切り離して見てみると、一点から放射状に枝が広がっていて、その先に薄緑の球が付いています。その球とブドウの実がくっついているわけで、この球の数だけ実があるのです。枝分かれした先を絵にするのは、3歳児にとっては至難の業。まずは観察、そして描いたらどんなふうになるか「木」だけを描いたものも見せます。「ブドウの実のついている先っちょって、花火みたいだね。たくさん描いたら、さっきバラバラにしたブドウみたいに64粒のブドウをつけることが出来るかも。」子ども達はクレヨンの色を選んで画用紙にまず主軸を描きます。ここからがいつも問題で、認識をしっかりさせておかないと、主軸に対して横線ばかりの木ができてしまったりします。今回の私のクラスでは、私のどの働きかけが功を奏したのか、子ども達は無言で真剣に主軸から枝分かれした部分を描いていきます。そもそも放射状に線を配置すること自体、途方もなく難しいのですが、まるで修行僧が写経をしているようにゆっくり丁寧に描いていきます。
次はブドウの実。菊皿に3色の絵の具が用意してあります。まず子どもにそのお皿を見せる。「ねえ、赤と青と白い絵の具が入っているけど、ぶどうは赤でも青でも白でも無いよね。ブドウ色が無いんだけど。」「ぜんぷ混ぜてみれば?」と返してくる子も時々いますが、今日はシーン。
「赤いぶどう。」タンポの先に絵の具をつけて枝の描いてある画用紙にペタン。「ブドウじゃない、さくらんぼみたいだ。」「そうだねー。じゃ、青は?」青でペタン。「ブルーベリーみたい!」「じやー、全部つけてみよう。赤、青、白、全部つけたから押してみるよ。ぎゅーっ、ぱっ。」一瞬子供達は無言。何が起こるのか予想できなくて固唾を飲んで見ていたのでしょうが、タンポを話したらそこには大きくて綺麗な紫色のブドウの実が! 子ども達も勇んで押します。どこに押したらいいのかな、まだ押すところ残っている?まだまだ子供達は慎重です。絵の具を持たせたら一気に発散行動に走るいつもの子ども達が、一粒一粒押していきます。あーっ、本物みたいなブドウが出来たー。
 色を認識しそれを描き加えることで、輪郭だけの形で済ませていた絵が実在感のある絵になっていきます。どこに彼らの視点を持っていくか、そこにどんな意味が隠されているのかを認識してもらう時間の組み立て、言葉選びが大切です。提示して後は子どもがどう捉えるかを漫然と待つのではなく、どの時点で何に気づくか。それを実現しようとするモチベーションをどんな言葉掛けで持たせるようにするか。その時の子供達の集中力とやり終えた時の達成感を大切にし、それをまた次の課題に結びつけていく、それがパルの授業だと私は思っています。これらのプロセスを踏むことは、単に絵を描く過程に使えるだけでなく、今後の様々な学習に生きていくはずです。

・自分の好きな果物を思い出して描いてみる
・ブドウを解体して実と軸にわけて観察する
・ブドウの数を推測する
・ブドウの実の数を数えてみる
・ブドウの木(軸)を描いてそこから放射状に広がる先端を描く
・3色の絵の具を操って、ブドウの実を全ての花火の先に押していく
・出来上がったブドウを眺め、本物らしいかどうか確かめる
                                         高崎

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