幼児教室PAL パル・クリエイション

   

パル便り

パルだより10月号 リトル/チャイルド

 WHOのテドロス事務局長が、9月14日、新型コロナウィルスパンデミックの「終息が
視野に入った」との認識を示したそうです。昨年I月には1週間に10万人だった世界の死者数が、
今年9月5〜11日は約1万1000人となり、世界的に見ても死者数が減少傾向にあるという
のが決め手だそうですが、ゼロになる収束ではなく、インフルエンザのようなタイプの一定地域
に一定の罹患率、又は一定の季節で日常的に繰り返し発生するウィルスのエンデミックへの移行
なのだと思われます。政治・経済、医療機関などそれぞれの思惑の掛け違いによる混乱が、また
感染者の増加を引き起こさないことを願うばかりです。
 さて、今回はパルで年長さんの希望者に実施している筑波大附属小受験のペーパー対策の実態
をお伝えし、そもそも幼児に必要な能力とは何なのか、それはどのように培われるのかをお話し
したいと思います。まず何でパルがペーパー対策なんぞに手を染めたのか、から始めます。それ
は、土地柄に関係します。文京区には3つの国立大附属小学校があります。パルには文京区在住の
方が多く通われていて、考査を受けるためのくじはとりあえず引くという方がほとんどです。くじ
から考査まで1ヶ月弱あるのですが、くじを引いてからペーパー対策をして間に合うお子さんは稀
有です。過去五年間の過去問に目を通し、それが出来るようになるのにはそれなりの期間が必要
で、何もしないで考査に臨めば子どもは手出しができず傷つくことに・・元々巧緻性を測る考査
の部分は、参考課題をくじを引いた人に提供していたことも影響していたように思います。
 もう何年もペーパーの提供を続けていますが、それなりに気付いたことが多くあります。「どこ
かで一度出た問題だ」と気付けるような問題はまず見かけません。多くは図形をイメージする能
力、すなわち心の中(頭の中)で折りたたんだり、展開したり、回転させたりする能力を測る問題で
す。そして出題の説明に使用される言葉を速やかに理解する能力(語彙力)を持たなければ正答は得
られません。当然ここで出題される問題のレベルは、普通の幼児が要求されるものではありませ
ん。図形を反転させる、回転させる、これらの問題を小学3年生に出題すると、反転は8割近くの
正答率が得られますが、回転は3割に届きません。では筑波の付属小はなぜそんな難しい問題を出
題するのかを推測してみます。これらの問題は、知識として学ぶものではなく、考える力を必要と
するものです。言い換えれば情報を保持しながら必要な心的操作を行い、変換する能力=推論能
力で、推論の能力は学力の核を形成する認知能力なのです。考える力は、小学校の学習指導要領
に決められた単元が年齢ごとに並んだものとは違い、子供それぞれが各々の生育環境によって自
ら育む力なので、年齢とリンクしていません。筑波はこれらの設問によって、考えるという経験が
身に付いている子どもを選ぼうとしているのでしょう。
 では考える子を育てるには、どのような環境が必要なのでしょう。前出の図形問題のテストを
受けた小学生の親にアンケートを取った結果と、子どものテストの得点との相関からわかったこ
とによると、「本物の学力を生む家庭環境」を考えるときに必要とされる三つの要素が明らかに
なったそうです。第1は、本のある家庭環境であること。子供のための本は勿論、家庭にある全
ての本が当てはまるとのこと。本を手にすることが普通に行われる状態であること。本のある家
庭環境は、言葉の力とともに、数の抽象的な概念理解、関係や類推関係の理解を支える認知処理
能力と推論力を育みます。第2は、読書習慣。子どもが自ら読書に至る前に絵本の読み聞かせを
することは必須です。字に興味を持つようになっても、文字を一字ずつ追っている、もしくは読め
たとしても文章としての理解が難しいうちは、読み聞かせを打ち切ら無い方が良いでしょう。子ど
もが読書をよくすることは言葉の力は勿論のこと、数や形の力を育みます。第3は、就学前に子
供が自ら関心を持ってひらがなに興味を示して読んだり書いたりすること、数を数えたりするこ
とが後の学力につながります。また、就学前に生活の中で時計を見て時間を意識させることも学
力に影響します。しかしこれらは全て子どもにとって自然の環境であるべきで、言葉や数字を直接
教えるより、子どもが言葉や数に自ら自然に興味を持つように環境を整えることが、就学後の学
力につながります。日ごろ言葉を使い、言葉をたくさん覚えながら推論をしたり、日常の様々な
生活体験から「なぜ」を見つけ、因果関係を推論する練習を積み重ねることで、考える力は鍛え
られていきます。イギリスで行われた3000人以上の子ともを対象とした調査では、3〜4歳児の
家庭における質の高い学習経験が、幼稚園などの就学前教育と相互に作用して後の学力につなが
るという結果を報告していますが、その質の高い学習経験の内容に挙げられているのは、絵本の
読み聞かせ、文字、数、歌、お絵描き、図書館訪問などの頻度だそうです。
 では、筑波が実施するペーパーについては、どのように対策をしたら良いでしょうか。前出のよ
うな環境で育つことが望ましく、そうした環境下で考える楽しさを知った子どもは、図形問題に
パズルを解くように取り組めるでしょうから様々な問題に当たってみてください。図形問題を前に
して自信を持てない子には、付き合ってくださる保護者の方の接し方が鍵となります。新しい問題
を前にして、その時点ですぐにわかることを望むことは子どもを萎縮させるだけです。図形問題を
解くことが子どもの好奇心の刺激になるような付き合い方が出来ると、子どもは「考える」こと
をする方向に進めるのではないでしょうか。筑波の問題に初対面という状態で考査を受けさせる
のは酷です。せめて一つ一つの問題がどんな答えを要求しているのかを理解するようにはしておく
ほうがいいでしょう。

子どもの語彙を増やすには、漫然と話しかけていればいいというものではなく、子どもにとって
どのような言葉が把握困難なのかを知ることが大切です。特に空間に関する言葉と時間に関する
言葉は幼児にとって厄介な言葉のようです。空間言葉では「前後左右」といった位置関係を示す言
葉も、子どもが自らの視点を柔軟に変換することが難しいので混乱が生じます。更に○○の
「裏」とか「手前」とか「向かい」といった単語も操作が難しいと思われます。このようなこと
を念頭に、会話の中でよく使うようにし、理解が深まっていることを確かめていくのが良いで
しょう。

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